阿部・井門らの研究は、ウッダードの研究と成果である、Woodard, W. P., The Allied Occupation of Japan 1945-1952 and Japanese Religions, E.J. Brill, 1972(邦訳『天皇と神道』(阿部美哉訳、一九八八年)を受けたものでもあった。ウッダードは総司令部情報教育局(SCAP/CIE)宗教課に調査スタッフとして勤務した経験から、総司令部内部の第一次資料にもとづいて人権指令、神道指令、宗教法人令、宗教法人法など主要な宗教政策の成立過程と実施にまつわる諸問題の処理について詳細に検討した。特に「神道指令」における国家神道の廃止と政教分離に関連して、「国体のカルト」の廃絶をめざしたものであって、神社神道を廃止しようとしたのではない等の重要な指摘がなされている。
阿部・井門らは、さらに米国の占領政策の形成過程に踏み込み、神道指令や戦後憲法での政教分離制度が日本宗教に如何なる影響を及ぼしたかを総合的に探求した。大石秀典、渋川謙一、福田繁など占領軍の下で仕事をした官僚の聞書きも収録し、史料的にも貴重な内容であった。その一端を担った中野は、戦争それ自体が、また軍事的占領による異なった文化をもつ敗戦国家の改造が、実は異なった文明間の闘争、また世界観の闘争の側面を持っており、その中核には宗教があることを認識し、収録した論考において、アメリカ合衆国と日本という二国間における宗教的世界の相克が占領政策それ自体に独特な陰翳を与えていることを指摘した。
しかしこの共同研究と出版にはいくつかの欠落点や残された課題があった。それは@「日本」と言っても本土のみであり、「沖縄・南西諸島」に対する目配りがほとんどなかったこと。A「連合国」と言ってもアメリカ中心であり、イギリスやソ連、オーストラリアなどの対日政策、とりわけ天皇制の存続やいわゆる国家神道に対してどのような考え方をしていたのかが検証されていないこと。B日本の旧植民地諸国における「占領と戦後処理」についても視野に入っていないことなどである。本書の編者の一人である中野毅は、この共同研究と出版に分担者および執筆者としてかかわったが、この残された課題にいずれは取り組みたいと願っていた。
その後三〇年近くが経過し、当時は不明だった史資料も多数発見され、公文書アーカイヴのデジタル化、さらにインターネット上での公開など、研究環境も飛躍的に向上した。多くの史料の発掘・発見もあり、新たな占領研究の成果が蓄積され、戦後レジームに対する新たな認識を再構築する必要性が高まってきた。こうした状況をふまえ、この阿部美哉・井門冨二夫らによる研究成果を基盤としつつも、それ以降に発掘・発見された最新の資料を収集し、他地域の占領政策との比較の視点から再検討すること、およびこの研究で残されていた課題を検討することによって、連合国によるに占領において宗教政策がどのように行われたのか、その比重や影響を、様々な地域における事例を通して可能な限り全体的に明らかにしていく必要があった。
日本の敗戦と占領は、さまざまな地域での複数の攻防戦の過程であり、敗戦後における連合軍の占領は日本本土だけではなく、南西諸島における占領、また日本の旧植民地であった台湾、朝鮮半島などの「複数の占領」があった。連合軍の日本占領はこれらの地域での出来事を視野に入れた研究によって、初めて全体的な把握が可能になるといえる。
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